2009年01月17日

「東京発信州行き鈍“考”列車30年」(扇田孝之著)を読む


「東京発信州行き鈍“考”列車30年」 扇田孝之著・現代書館刊 定価1800円・税別


現東京都副知事の猪瀬直樹氏が好んで使う、「時速4キロと時速50キロの文化」という概念の提唱者が、大町市在住の地域社会研究家であるこの本の著者扇田孝之氏です。
著者は若き法哲学の学究生として毎夏長野県の学生村で過ごすうち、信州がすっかり気に入ってしまい、ついには今から30年前、自ら大町市郊外簗場(やなば)の山荘経営者として、東京から移住してしまった経歴をお持ちです。当時はほとんどの住宅に冷房装置がなく、長野県内には都会の暑い夏を避けて勉強するための学生村や学者村が、数多く誕生していたのです。


当時の移動は徒歩(時速4キロの文化)と公共交通機関の時代、その後の高度経済成長の伸展と共に到来した車社会(時速50キロの文化)への劇的な変遷は、著者が移住した信州の片田舎にも大きな変化がもたらされました。
その中にあって著者はそれを非常に冷静な目で見つめます。と同時にその目と行動は、単なる信州の山荘オヤジの域を超えて、白馬国際映画祭のプロデュースなど全国・世界へと幅広く展開されました。


大変広い視野と、昨日今日ではない長い実体験が相まっての都会暮らしと田舎暮らしへの洞察など、その指摘には大いに納得させられます。そして今将に未曾有の世界的大不況の到来という先の見えない閉塞感の中にあって、私たちの持つ従来の都会と田舎に対する価値観も根底から覆るかもしれない状況に、著者が示す多くの示唆は大変有用に感じました。


またあれから30年を経て、バブルの頃の喧騒も嘘のように田舎から去った今日、著者夫妻の落ち着いた日々の暮らしの中で感じ取れる、身の回りで起きる微妙で繊細な四季や自然の変化に対する細やかな描写のなかに、著者の愛する信州に寄せる熱い思いを感じることも出来ました。


さらに私が思うに、特に著者は随筆家として大変な美文家で、無駄・無理のない流れるような文章と豊かな表現力にも大いに感心させられました。是非ご一読をお勧めいたします。


  


Posted by 胃がん退職者 at 21:30Comments(0)田舎暮らし